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この事例は、公益社団法人日本産婦人科医会公式サイトで紹介されている裁判例から紹介しています。
妊娠37週4日で出産した、かつて帝王切開の経験がある妊婦さんの事例です。
予定帝王切開で生まれてきた赤ちゃんは、多呼吸のため保育器で管理されることになり、お母さんには鎮静剤が投与されました。その後は赤ちゃんの状態も安定したためキャリーベッドに移され、直接授乳も行なわれています。その際の赤ちゃんの体勢はうつ伏せではなく、口や鼻が塞がるようなこともありませんでした。
その日の夜、赤ちゃんが乳首を吸わず、手も握らなくなったことにお母さんが気づきます。助産師が駆けつけて赤ちゃんをNICUに入室させましたが、赤ちゃんはすでに心肺停止状態でした。蘇生を行ないましたが、結果的に赤ちゃんは低酸素性虚血性脳症(※1)を起こしてしまったのです。
訴訟の争点は大きく分けて①赤ちゃんの体温管理義務違反、②赤ちゃんの栄養補給義務違反、③赤ちゃんの経過観察義務違反の3点に絞られました。①②に関して医療機関側の落ち度はないとされましたが、本事例の最大のポイントは③にあります。
授乳は母子の生理的行為であり、常に医療スタッフが立ち会ったり血中酸素濃度をモニタリングしたりする義務はありません。しかし、まれに新生児の突然死や窒息、圧死といった事故が発生するため、医療機関は少なくとも出産後の入院期間中は母子への適切な指導や観察を行なう必要があります。
医療スタッフは赤ちゃんをお母さんに預ける際、帝王切開による疲労や鎮静剤の影響でお母さんが授乳中に眠ってしまったり意識がもうろうとしたりして、赤ちゃんの窒息や圧死が起こりうることを想定すべきです。
また、赤ちゃんの容態が急変した際にお母さんが的確に対応できない可能性も考えられます。実際に本事例では、お母さんが赤ちゃんの異常に気づいてから医療スタッフに伝えるまでに40分が経過しています。もし急変の可能性についてお母さんが事前に十分な説明を受けていれば、早くに赤ちゃんの異常に気づいて連絡できた可能性があります。
このような状況から、裁判所は注意すべき時間帯に経過観察を一切行わなかった医療スタッフに経過観察義務違反の過失があるとし、1億3,047万円の損害賠償請求を認めました。
参照元:公益社団法人日本産婦人科医会公式サイト「裁判事例から学ぶ」
https://www.jaog.or.jp/note/母児同室中の観察不足による低酸素性虚血性脳症/
※1:低酸素性虚血性脳症 |
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