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発症率

脳性麻痺の発症率

公益財団法人日本医療機能評価機構の「脳性麻痺児の実態把握に関する疫学調査報告書(平成30年10月)」によると、脳性麻痺の発症率は、生まれてくる赤ちゃん1,000人に対して約1.7人という調査結果が報告されています。

参照元:【PDF】公益財団法人日本医療機能評価機構
脳性麻痺児の実態把握に関する疫学調査報告書(平成30年10月)
http://www.sanka-hp.jcqhc.or.jp/documents/report/pdf/nouseimahijinojittaihaakunikansuruekigakuchousahoukokusyo.pdf

周産期医療の進歩に伴って早産の赤ちゃんの死亡率が低下したことで、1980年頃には約0.1%まで発症率が減少しました。しかし、現在では早産や低出生体重児など脳性麻痺のリスクが高い赤ちゃんが増えてきたため、同じように発症率も上昇しています。ただ、こうしたデータは諸外国の先行研究に頼るところが大きいのが現状です。日本では脳性麻痺の発症率に関する報告が少なく、その精度も含めて不明な部分も多いと考えられます。

そのような中で、公益財団法人日本医療機能評価機構は「脳性麻痺児の実態把握に関する疫学調査プロジェクトチーム」を立ち上げ、鳥取県、徳島県、栃木県の3県の協力を得て調査を実施しています。以下にその概要を紹介します。

調査の対象

本調査は、前述の3県において2009年から2013年の5年間に生まれた赤ちゃんで、脳性麻痺児を受け入れている医療機関に入院・通院歴があるケースが対象です。染色体異常や先天異常による重度精神遅滞で運動障害をきたしているケースは対象外です。

ただし、そういった病気を考慮しても筋肉の異常や運動レベルの低下から脳性麻痺の診断が妥当と考えられるケースは対象としています。

調査の方法

調査協力医療機関において脳性麻痺を含む関連病名から症例を抽出し、調査票調査が行なわれました。主な調査項目は以下のとおりです。

調査の結果

3県において、調査対象期間中に生まれた赤ちゃんは135,335人、うち脳性麻痺の赤ちゃんは231人でした。したがって、脳性麻痺の発症率は0.17%、1,000人に対して1.7人という割合になります。

多い年では2009年が0.21%、少ない年では2012年が0.14%でした。各県の5年間における脳性麻痺の赤ちゃんの数は鳥取県が34人、徳島県が62人、栃木県が135人で、発症率に換算すると鳥取県が0.14%、徳島県が0.21%、栃木県が0.16%という結果となっています。

在胎週数別脳性麻痺発症率

本調査では、赤ちゃんの在胎週数別にも脳性麻痺の発症率が算出されています。3県における在胎週数別の脳性麻痺発症率は、在胎週数27週以下が10.26%ともっとも高く、28週~31週が5.61%、32週~36週が0.61%、37週以上が0.08%という結果が出されました。正期産に近づくほど発症率は低くなることが見てとれます。

参照元:【PDF】公益財団法人日本医療機能評価機構
脳性麻痺児の実態把握に関する疫学調査報告書(平成30年10 月 )
http://www.sanka-hp.jcqhc.or.jp/documents/report/pdf/nouseimahijinojittaihaakunikansuruekigakuchousahoukokusyo.pdf

出生体重別脳性麻痺発症率

同じように、生まれたときの赤ちゃんの体重別にも脳性麻痺の発症率が算出されています。

3県における出生体重別の脳性麻痺発症率は、出生体重999グラム以下が8.15%ともっとも高く、1000~1499グラムが5.41%、1500~1999グラムが1.53%、2000~2499グラムが0.42%、2500~2999グラムが0.09%、3000~3499グラムが0.05%、3500~3999グラムが0.02%、4000グラム以上が0.17%という結果が出されました。3500~3900グラムの赤ちゃんの発症率がもっとも低くなっています。

参照元:【PDF】公益財団法人日本医療機能評価機構
脳性麻痺児の実態把握に関する疫学調査報告書(平成30年10 月 )
http://www.sanka-hp.jcqhc.or.jp/documents/report/pdf/nouseimahijinojittaihaakunikansuruekigakuchousahoukokusyo.pdf

その他の調査について

上記の調査よりも古いデータですが、東京大学でも脳性麻痺の発症率や経年的変化についての調査検証が2015年に行なわれています。そちらについても紹介しましょう。

調査の方法

厚生労働省では、全国ほぼすべての医療機関における診療報酬明細書(レセプト)情報をデータベース化しています。本調査では直近1年分の脳性麻痺に関する疾患名や治療行為がある全レセプトのデータ抽出申請が行なわれ、利用許可に基づいた匿名化データが対象とされました。一方で人口動態推計から年齢階級別の人口が算出され、20歳未満を対象に年齢階級別の脳性麻痺患者数、人口あたり患者数の推計が行なわれています。

調査の結果

2012年6月から2013年5月までの1年間における全国のレセプトデータ調査の結果、20歳未満の脳性麻痺患者数は44,381人、うち男性が25,237人、女性が19,144人でした。そして、いずれの年齢においても女性よりも男性の有病率が高いことがわかっています。

男女合計では0~4歳における脳性麻痺の有病率は0.226%、5~9歳では0.227%、10~14歳では0.207%、15~19歳では0.174%でした。1歳ずつの年齢刻みでみてみると、0歳から上昇する有病率は4歳をピークにして徐々に減少していく傾向にあります。

有病率が年齢とともに低下する理由として、年長になると治療やリハビリを頻繁に受けるケースが減少する(調査対象のレセプトが少なくなる)こと、早くに亡くなってしまうお子さんがいることなどが挙げられます。したがって、年長児の脳性麻痺の有病率は年少児とさほど変わらないといえるでしょう。

参照元:【PDF】科学研究費助成事業データベース 2015 年度 実績報告書
脳性麻痺児の発生頻度の推計と経年的変化の有無の検証(東京大学)
https://kaken.nii.ac.jp/ja/file/KAKENHI-PROJECT-25670312/25670312seika.pdf

裁判件数に見る医療過誤による脳性麻痺

日本には医療過誤の明確な件数を示す資料が存在しませんので、医療過誤による脳性麻痺の発症率は裁判の件数などから推測するしかありません。

裁判所の公式発表による医事関係訴訟事件の診療科目別既済件数(平成27年~令和3年)では、内科がもっとも多く、次いで外科、歯科、整形外科と続き、産婦人科は5番目の多さで件数にして336件となっています。もちろんすべてが脳性麻痺に関わる事例とは限りませんが、数ある診療科の中でも産婦人科での医療過誤は多いといえることは間違いなさそうです。

そして気をつけていただきたいのは、このデータは訴訟にまで発展したものだけを示した数字だということです。医療過誤であっても見過ごされてしまったケース、示談交渉で解決に至ったケースなどは含まれていないことを考慮すると、実際に起こった医療過誤の件数はもっと多いと判断するのが自然でしょう。

参照元:【PDF】裁判所公式 医事関係訴訟事件(地裁)の診療科目別既済件数(平成27年~令和3年)
https://www.courts.go.jp/saikosai/vc-files/saikosai/2022/220701-iji-toukei4-shinryoukamokubetsukisai.pdf

参考文献

【PDF】公益財団法人日本医療機能評価機構
脳性麻痺児の実態把握に関する疫学調査報告書(平成30年10 月 )
http://www.sanka-hp.jcqhc.or.jp/documents/report/pdf/nouseimahijinojittaihaakunikansuruekigakuchousahoukokusyo.pdf

【PDF】科学研究費助成事業データベース 2015 年度 実績報告書
脳性麻痺児の発生頻度の推計と経年的変化の有無の検証(東京大学)
https://kaken.nii.ac.jp/ja/file/KAKENHI-PROJECT-25670312/25670312seika.pdf

【PDF】裁判所公式 医事関係訴訟事件(地裁)の診療科目別既済件数(平成27年~令和3年)
https://www.courts.go.jp/saikosai/vc-files/saikosai/2022/220701-iji-toukei4-shinryoukamokubetsukisai.pdf

【PDF】大阪府「一般整形外科医を対象とした - 脳性麻痺患者診療マニュアル」
https://www.pref.osaka.lg.jp/attach/1202/00014566/1nouseimahi.pdf

『脳性麻痺と周産期合併症/イベントとの関連−最新の知見』
編集:松田 義雄・佐藤 昌司・ 藤森 敬也 メジカルビュー社(2021年7月29日)

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東京都新宿区西新宿に本部を置き、埼玉、千葉、横浜、名古屋、大阪、福岡、バンコクなど国内外10拠点以上に事務所を展開。総勢90名以上の弁護士と200名を超えるスタッフが、医療過誤をはじめとする幅広い分野で問題や悩みを抱えるお客様をサポートしています。(数字は2023年6月調査時点)

監修弁護士よりメッセージ

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金﨑 浩之 弁護士
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