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分娩が遅れることを医学用語では「遷延分娩」といいます。日本産科婦人科学会では「分娩開始後、初産婦は30時間、経産婦は15時間以上を経過しても児娩出に至らないもの」が遷延分娩で、「一度は陣痛が発来し分娩が進行していたが、子宮口がほぼ全開になって以降それまで同様の陣痛が続いているにもかかわらず、2時間以上にわたって分娩の進行が認められない場合」が分娩停止にあたると定義されています。
分娩が問題なく終了するために必要な3要素は「娩出物=赤ちゃん」「産道」「娩出力=陣痛」であり、どれかひとつにでも異常があると分娩の遅れにつながります。
赤ちゃんの異常として多く挙げられるのは胎位異常です。赤ちゃんの頭が下にあっても顔は母体のお腹側を向いている、というのが多いパターンです。首を曲げずに伸ばして上を向いていることもあり、こうなると産道を通るためにより広さが必要です。
また、赤ちゃんのお尻や足が下側にある、いわゆる逆子(さかご)も胎位異常のひとつで、分娩によって赤ちゃんがダメージを受けやすくなります。切迫早産や子宮筋腫など子宮の異常、赤ちゃんの先天異常などによって逆子になりやすいと考えられています。
産道の異常として多く挙げられるのは軟産道強靭(きょうじん)です。
産道は、骨盤など骨で構成されている「骨産道」と、子宮や膣など軟部組織で構成されている「軟産道」に分かれます。骨産道はほとんど形を変えませんが、軟産道は赤ちゃんが降りてくると広がって形を変えていきます。しかし、ときに軟産道が非常に硬くて赤ちゃんが通れない場合があり、これを軟産道強靭といいます。
子宮も膣も軟産道強靭の原因になりますが、特に子宮頸部が原因というケースが多いようです。
陣痛の異常として多く挙げられるのは微弱陣痛です。分娩が始まったにもかかわらず、陣痛の強さが足りない、陣痛が持続しない、間隔が長いなどの理由で分娩が進まないことを指します。
微弱陣痛には2つのパターンがあり、分娩開始時から陣痛が弱いケースを原発性微弱陣痛、正常だった陣痛が分娩中に弱くなるケースを続発性微弱陣痛と呼びます。後者の場合、分娩の経過に問題はなかったか、赤ちゃんや産道に異常はないかを十分に確認して方針を決めていきます。母体の疲労が原因ということも考えられ、しっかり休むことで改善する場合もあります。
分娩が遅れていても、子宮内感染などを認めず赤ちゃんの無事が確認されているなら、基本的には医療介入せずに経過を観察していきます。しかし、遷延分娩で子宮内感染を合併した場合や、赤ちゃんの心拍に異常がみられる場合は、仮に心拍が回復したとしても適切な医療介入を検討すべきです。
ただし、心拍に異常がなければその後の経過に問題はないという見解が存在する一方で、遷延分娩は新生児仮死や脳出血の発生リスクを高めるという報告もあります。
遷延分娩そのものが脳性麻痺の原因になるという報告はありません。
しかし、遷延分娩は「絨毛膜羊膜炎」との関連が指摘されています。これはお腹の赤ちゃんを包んでいる卵膜に炎症が起きた状態で、細菌の感染が原因です。その炎症が悪化すると赤ちゃんの脳神経細胞にもダメージをもたらし、脳性麻痺の原因となり得る「胎児側脳室周囲白質軟化症」の発症につながるといわれています。
こうした状態は早産の赤ちゃんに起こりやすいと考えられていますが、脳性麻痺を起こした正期産の赤ちゃんでも臍帯血の炎症反応が高いケースがあり、同じように炎症が脳細胞障害につながっている可能性が指摘されています。
いずれにしても、遷延分娩が巡り巡って脳性麻痺を引き起こすという発症メカニズムは存在するといえそうです。
遷延分娩が赤ちゃんに何らかの影響を及ぼす可能性がある以上、それを回避するため適切な対応を取らなければなりません。検討すべき手段は大きく以下の3つです。
分娩が非常にゆっくりで、赤ちゃんのサイズが大きすぎなければ、陣痛促進剤の投与によって分娩の速度が回復することがあります。それでも回復しなければ、赤ちゃんが産道を通れないか微弱陣痛の可能性があるので、帝王切開を検討する必要があるでしょう。赤ちゃんのサイズや向き、母体の骨盤の状態によっては補助分娩が適切な場合もあります。
脳性麻痺の発症には様々なリスク要因が複雑に関わっており、医療過誤(医療ミス)によるものも、残念ながら少なからず含まれています。お母さんや赤ちゃん側にリスク要因があった場合でも、「やるべき対応をしなかった」ときは、病院側の責任を問うことが可能です。
迷ったら、まずは医療過誤に精通した弁護士に相談することをお勧めします。
参考文献 |
【PDF】公益財団法人 日本医療機能評価機構 【PDF】産婦人科 診療ガイドライン―産科編 2020 『脳性麻痺と周産期合併症/イベントとの関連−最新の知見』 |
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