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裁判の進み方と勝率

医療裁判を起こす際は、裁判の流れや勝率を知っておくことが大切です。それによって問題点を把握して、有効な対策が打てるようになります。ここでは、医療裁判の進み方やかかる時間、勝率、医院や病院が負う責任などをまとめました。よかったら参考にしてください。

医療裁判になった場合の進み方

医療裁判の流れは、訴訟を提起する前と、訴訟を提起した後の2つに区分できるでしょう。訴訟提起前の流れは、証拠収集・証拠保全、医療調査があります。次いで訴訟提起後は、争点整理、証拠調べ、鑑定、和解、判決と進んでいきます。

【訴訟提起前】

【訴訟提起後】

各段階の概要とポイントを説明します。

1.証拠収集・証拠保全

はじめに、医療過誤の有無を確認するための証拠資料の収集と保全が必要です。証拠資料には、カルテ、検査記録、検査報告書等があります。資料の取得方法は「証拠保全」と「任意開示」の2パターンです。

証拠保全は、弁護士を通じて裁判所に申し立てを行い、裁判所から病院に対して開示の要請を行います。これに対して任意開示は、患者本人またはその家族が自主的に開示請求を行うことです。

それぞれメリット・デメリットがありますので、事案の内容に合わせて、適切な方法を選択する必要があります。

2.医療調査

医療調査は、集めた証拠資料を踏まえて、当該事案が医療過誤に該当するか否かを第三者の協力医に意見を求めることです。当事者(患者本人)はもちろん、弁護士であっても専門的な医学的知見はないため、専門的知識を持つ第三者の医師に意見聴取を行います。

医療調査の目的は、医学的な知識を深めることではなく、裁判を進めるに際して、法的な問題点を明らかにし、有効な対策を立てることです。医学的な知見を得たうえで訴訟戦術を組むことになるため、弁護士の協力は必須になります。

3.訴訟の提起

訴訟の提起とは、被害者(原告)が病院側(被告)を訴えるために、裁判所に訴状を提出することです。原則として事案が発生した場所(被告の所在地)を管轄する裁判所に、証拠書類とあわせて提出します。裁判所に訴状が受理されたら、被告にも訴状が送達され医療裁判がスタートします。

 

4.争点整理

争点整理とは、原告と被告、双方の言い分が食い違っている点を明らかにすることです。原告と被告がそれぞれ訴状・答弁書・準備書面・書証といった書類を提出し、互いに主張と反論を繰り返しながら、当該事案ではなにがポイントになるのか?という争点を絞り込みます。

医療裁判では、準備書面に加えて「診療経過一覧表」の作成も必要です。これは文字通り診療の経過を示した書類ですが、争点や流れを裁判所に対してわかりやすくする目的があります。

5.証拠調べ

証拠調べとは、原告と被告双方の代理人(弁護士)による口頭弁論にて、提出された書類(訴状・答弁書など)や証言に沿って、証拠の取り調べを行う手続きです。証言は、原告(被害者本人)をはじめ、原告の家族、遺族、担当医、担当看護師などが行います。

開かれる口頭弁論の回数には基本的に制限はありませんが、裁判所が十分に取り調べができたと判断した時点で終了します。

6.鑑定

事案によっては、双方の主張が医学的に妥当なものかどうか判断する必要があります。そのような場合に、裁判所が第三者の医学の専門家を選任し、医療の見解に関する意見を求める手続きが鑑定です。鑑定が行われる場合は審理期間も延伸するため、その分の費用も必要になります。

7.和解

和解とは、当事者が話し合って問題を解決し裁判をやめることです。裁判の進行中、裁判官が和解を勧める場合もあれば、当事者から提案が行われる場合もあります。白黒はっきりさせるのは避けて、お互いに譲り合い、妥協点を模索しながら融和的に解決する方法です。医療裁判は長期化しやすいため、最終的に和解で終わるケースが少なくありません。

8.判決

裁判ですべての審理が終了したのち、裁判所が双方の主張の内容と証拠調べを踏まえて、最終判断を下す手続きが判決です。医療訴訟の場合、前述のとおり長期化しやすいため、判決になるより和解で終了するケースが多いと言われています。

裁判にはどのくらいの時間がかかるのか

弁護士法人ALG&Associates

医療裁判にかかる期間はとても長くなります。第一審(地裁)における通常の民事訴訟は1年以内に終了しますが、医療訴訟の場合は約2~3年かかると言われています。

長期化しやすい理由は、医療訴訟が通常の民事訴訟とは異なり、多分に高度な医学的知識を必要とする事案だからです。争点整理や証拠調べはもちろんのこと、専門家による鑑定手続きも行われます。

専門分野であるだけに、手続きが煩雑で越えるべきステップも多くなり、裁判所も慎重に審理を進めていかなければならないのです。そしてこれこそが、医療訴訟が和解で終了しやすいと言われる所以です。医療裁判では多くが和解による解決となり、判決に至るのは和解より少ないと言われています。

医療裁判を起こすときの注意点

刑事裁判になるとは限らない

医療過誤を原因として訴えたとしても、必ずしも刑事事件になるとは限りません。刑事事件として起訴するかどうかは検察官が決定します。医療過誤が発生したと思われる場合、刑事事件として起訴されるかどうか、その判断が妥当かどうかは弁護士に相談しましょう。

医療裁判には「消滅時効」がある

医療事故・医療過誤による裁判には、民法724条に定められた「消滅時効」という期限があります。消滅時効とは、被害の請求権を得た側が一定期間内にその権利を行使せずにその権利を失ってしまうことを言います。具体的な期間は民法724条に定められており、「被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間」、「不法行為の時から二十年を経過したとき」が消滅時効になっています。

医療裁判の勝率について

医療裁判は勝てるのでしょうか?あるいは、どのぐらいの勝率で勝てるのでしょうか?これは医療過誤の被害者にとって非常に気になるところです。

医療裁判の勝率は、裁判所が公表している医療訴訟の「認容率」で把握することができます。認容率とは、原告がどのぐらいの割合で勝ったかを示す統計です。勝訴のなかには、原告の主張が全て認められたケースだけでなく、部分的に認められたケースも含まれています。

裁判所が公表している「地裁民事第一審通常訴訟事件・医事関係訴訟事件の認容率」によると、平成29年から20.5%、平成30年18.5%、令和元年17.0%、令和2年22.2%、令和3年20.1%となっており、平成29年から令和3年の5年間の医療訴訟における勝率は約20%(※)です。

一部認められたケースを含めても、半分以上が敗訴していることを示すデータですから、医療裁判の勝率は決して高いとはいえません。

もっとも、この勝率だけで医療裁判は難しいと考えてしまうのは早計です。
医療裁判のもうひとつの大きな特徴は、和解で終結する事件が50%~60%に及ぶことです。つまり、金額はともかくとして、患者側が解決金を受領して終了しているものが多いという点です。

また、「無過失補償制度」という制度もあります。病院に過失があるかどうかに関係なく、医療事故・医療過誤の被害者に対して補償がされるものです。日本でも実際に2009年に重い脳性麻痺に対して採用された例があります。

参照元:最高裁判所|医事関係訴訟委員会について|地裁民事第一審通常訴訟事件・医事関係訴訟事件の認容率
(平成29年~令和3年の認容率の平均が19.66%)
(https://www.courts.go.jp/saikosai/iinkai/izikankei/index.html)
【PDF】(https://www.courts.go.jp/saikosai/vc-files/saikosai/2022/220701-iji-toukei3-ninyouritsu.pdf)

裁判で勝つためのポイント

医療過誤の被害を受けた患者側の主張が認められることで、損害賠償を受けられます。訴えた側の主張が一部でも認められれば賠償金を得られる可能性がありますが、裁判に勝つためにはどのようなことが重要になるのでしょうか。

カルテなどの証拠を取得する

医療機関からの損害賠償が認められるためには、医療機関側に過失があったこととその過失によって患者に損害が発生したことを証明する必要があります。CTやレントゲンなどの画像検査の記録、カルテなどの診療記録をはじめとした客観的な証拠を提出し、被害者側の主張を裏付けられるものをできる限り収集しましょう。医療裁判では証拠をどれだけ集められるかが重要になってくるのです。

弁護士に依頼する

弁護士を付けなくても訴訟を起こすことは可能ですが、長期化する傾向のある医療裁判や本人やその家族だけでは相当な負担になります。そこで弁護士に依頼することで、裁判に必要な書類の作成や証拠の収集等、多方面でのサポートを受けることができ大幅な負担軽減が期待できます。証拠の収集にはカルテ開示や証拠保全といった手段がありますが、弁護士に依頼し、データ改ざんのリスクが低い証拠保全を検討してもらうのがいいでしょう。医療機関側も弁護士を付けてくる可能性が大きいので、患者側も弁護士を依頼することで対等な立場で対応することができます。

医師や病院が負う責任とは?

医療過誤問題で医師や病院が負う責任は、民事責任・刑事責任・行政責任の3つです。刑事責任は、患者側が検察庁に告訴することで、病院や医師の「業務上過失致死傷罪」の責任追及ができます。また行政責任では、医師への戒告や医師免許の取り消し、医業停止処分などの責任追及が可能です。

医療裁判における責任追及は通常、民事責任の追及がメインとなります。医療過誤の民事責任追及は、「不法行為責任」と「債務不履行責任」の2つです。不法行為は、医師や病院の過失によって、患者が生命や身体を害することを言います。債務不履行は、医師と患者の間に診療契約が結ばれていることを前提に、その診療契約に違反したことに対する責任の追及です。

ここで押さえておきたいポイントは誰に立証責任があるか?という点です。民事責任の追及における立証責任は、不法行為責任・債務不履行責任のいずれにおいても患者側にあります。患者側が自ら証拠書類を集めて医療過誤の過失を立証することで、不法行為や債務不履行への損害賠償請求ができるのです。

ただし、個人でこれらの手続きを行うのは難しいため、医療裁判のノウハウを持つ弁護士にサポートを依頼するのが適切です。信頼できる弁護士に依頼することで、証拠収集や各種の手続きがスムーズになり、裁判を進めやすくなります。

「顧客感動」を目指し、日々尽力する弁護士集団

弁護士法人ALG&Associates

弁護士法人ALG&Associatesは、平成17年(2005年)に、金﨑浩之弁護士によって設立された法律事務所。
東京都新宿区西新宿に本部を置き、埼玉、千葉、横浜、名古屋、大阪、福岡、バンコクなど国内外10拠点以上に事務所を展開。総勢90名以上の弁護士と200名を超えるスタッフが、医療過誤をはじめとする幅広い分野で問題や悩みを抱えるお客様をサポートしています。(数字は2023年6月調査時点)

監修弁護士よりメッセージ

監修弁護士から伝えたいこと

先が見えず、いま不安な状況にあるご家族を
おひとりでも多く救済したい

金﨑 浩之 弁護士
監修
弁護士法人ALG&Associates
金﨑 浩之 弁護士

私たちの仕事は、患者さん側の代理人として「患者さん側が勝つべき事件を、いかにして勝ち取っていくか」が大事なのです。医学への高い専門性と医療過誤事件に関わる多くの解決実績を持つ弁護士法人ALGの医療過誤チームが、おひとりでも多くの方を救済できるよう尽力しています。

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